所沢で地域活動をしている方々の
インタビューをご紹介します。
まちづくりに関わる人へのインタビュー第4回目は、東町の町内会長を務める内野一郎さんにインタビューしました。東町は、商店街と住宅地が混在する町。開発地区にあり、大型マンションも増え、新たな住民が増加しています。一般的には、マンションの多い地域は町内会の加入率が低いといわれていますが、東町は新たな人口増加とともに加入率を増やし、現在は約9割にものぼるそうです。どのようなやり方で「入会したい」と思ってもらえるような町内会にしているのか。その取り組みについてお話を伺いました。
内野 一郎(うちの いちろう)さん
1948年、生まれも育ちも所沢。創業68年の歴史ある自動車整備工場「株式会社 内野自動車」の2代目社長。忙しい家業の合間を縫い、若い頃から青年会議所、PTA活動、消防団などの地域活動を精力的におこなう。自宅マンションの管理組合の理事長も経験。2016年から東町町内会の会長に就任。まちの再開発に伴い、東町にマンションが増加していることから、時代に合った町内会の新たな役割を模索し、まちづくりに取り組んでいる。
――内野さんが町内会長をお引き受けになったのは、どんな想いからですか?
「私は、20年前に東町で最初に建った大型マンションの管理組合の理事長をしていました。これまで東日本大震災や熊本地震など大きな自然災害がありましたよね。もし、この地域であのような災害があった時に、管理組合として何か備えがないとまずいんじゃないかと危機感を感じていました」
「また、理事長をしていても、行政や地域との繋がりを感じることがありませんでしたので、災害時のことを考えると不安で不安で。そんな矢先に、前の町内会長さんから交代を依頼され、その時思ったのは、これを機にマンション管理組合での運営経験を活かして、町内会とマンション管理組合との繋がりを作れるんじゃないかと。そうすれば、これまで抱いていた「災害時の不安」は、解消できるかもしれないと思ったんです」
「町内会が主体となって防災対策をしていけば、マンションが増えているこの東町の人たちが安心して過ごせるのではと考えました」
――新しい住民が増えているということで、何か意識されていることはありますか?
「まずは、新しく来られた方にも「関心が持たれるような町内会にしたい」と考えています。昔は馴染みのある人ばかりで集まっていた町内会でしたが、今は、新しいマンションに移り住んできた方たちが増えてきて〝町内会の役割が問われる時代〟になったと感じています。「町内会って何をしてくれるのですか?」と尋ねられた時に、しっかりと提示できるものがなければ、町内会は見捨てられてしまうんじゃないかと」
「そこで、『町内会活動の3本の柱』という文書を作って配布するようにしたんです。その3本の柱の1つは『安心・安全生活の支援』、2つ目が『住民同士の親睦を図り、町内で楽しく生活できる事業をおこなう』、そして3つ目は『行政や他町内と協力し活動をおこなう』といった、住民がより良い生活が送れる環境づくりを目的に掲げました」
――内野さんが町内会長になられて、真っ先に取り組まれたことは何ですか?
「まず、「ここに住んで良かった」と言ってもらえるような町にするために、みなさんの心配事は何かと考えました。今は、ほとんどの方の心配事は、「災害」とか「老後」のことなんじゃないかと思ったんですね。そこで、まず以前から懸念していた「防災」への取り組みをおこなうことにしました」
「大きな災害が万一起こった時に、町内のみんなが自ずと助け合える「自主防災組織」が必要だと考え、大型マンションや管理会社と連携し、「東町自主防災連絡会」を立ち上げました。そして、非常事態の時の避難計画も策定しました」
「東町の避難場所は「所沢小学校」になっていますが、より近い町内のイオンの駐車場や空き地などを「一時避難場所」として確保し、町内の商店でも2、3日くらい一時的な宿泊所として提供してくれる所なども事前に確認をして、新しく移り住まれてきた方でもわかるように「防災マップ」に、その情報を盛り込んで全戸配布しました」
「その結果、このプランは所沢市からの「紡ごう絆地域応援事業補助金」がおりて、防災マップの印刷費用に充てることができましたし、なんといっても、町内会に加入する意義も伝えることができたのではないかと思っています」
――昨年の防災の取り組みで、町内会に変化はありましたか?
「これまで町内会の新年会や総会などには、各マンションの役員さんは、ほとんど参加してくれませんでしたが、昨年の取り組みでマンションの役員さんやイオンの店長さんも参加してくれるようになりました。会の中では、参加者同士が自己紹介もでき、活動の報告やこれからやろうとしている事業計画を発表するなど、町内会としても横の繋がりができ、良い方向に変化してきました。町の仲間意識が強くなったように思います」
――今年はどのような計画を予定されていますか?
「今年は、もうワンステップ踏み込んだ自主防災に取り組みたいと考えています。具体的には、町内会として防災用の備品を用意する予定でいます。そして、各マンションの管理組合にも何をいくつ準備すべきかを考えて備えをしてもらう予定です」
「東町には大型店のイオンさんや商店街がありますので、食料などの商品のストックを非常時にどのように町内会に提供してもらえるか、などの取り決めを事前にしておこうと考えています。ちなみに先日少し聞いてみたところ、みなさん前向きな感じだったので、もし可能になった場合は、行政の支援がなくても、おそらく1週間くらいは町内で助け合って過ごせるのではないでしょうか。このような防災計画を少しずつでも立てていくことで、住民の安心に繋がっていけばいいなと考えています」
「また、町ぐるみで防災に取り組んでいることによって、住民同士の情報交換もできるようになってきました。例えば、グラシスタワー(東町にある超高層タワーマンション)が、「すでに〝自主防災会〟をつくっている」という話をパークハウス(東町にあるタワーマンション)が聞き、パークハウスもつくり始めるようになりました。このように、みんなで情報交換をしながら、この町を守っていこうという意識が高まっていますので、今年はさらに横の繋がりが強くなればいいなと思っています」
「あと、実は町の一番の安心・安全って、「仲間づくり」なんじゃないかなと思ってるんですね。設備や道具を準備するということも大事ですが、なんといっても、周りに知っている人がたくさんいるということが一番の安心。互いに知っていれば「大丈夫?」「逃げて!」などの声掛けができますからね」
――「仲間づくり」ができると、老後も楽しそうですね。
「そうです。住民同士が仲良くなるきっかけづくりの行事が、東町にはたくさんあります。多くの人が関われるよう、公民館活動、婦人会、ゆうゆうクラブ、体育部、小中PTAなど17の委員会を設けて、それぞれの委員会が新旧住民の交流や3世代が楽しめるような旅行や勉強会、コンサート鑑賞会、スポーツ、レクリエーションなどの企画をしています。何かの委員会に入って行事に参加することで、自然と仲間づくりがしやすい環境になっているんですね。新しい住民でも、子育てや教育や悩み事を町内の年配者に相談するようになるなど、昔ながらの交流の姿も見られます」
「いろいろやると町内会長は大変でしょ?と言われますが、私はむしろ楽しんでるんですよ。町内会長が活動をさせるのではなく、各委員会が自主的に企画した活動を後押ししてサポートしてあげるのが役目ですから」
――町内会長として、どのような気持ちで各委員会はじめ、住民の方と接していますか?
「私は、いろいろなことをみんなでやるのが好きなので、「町内会に入ってください」というより、「一緒に安心・安全な町にしましょう」とか「一緒に考えましょう」という気持ちで接しています。先日の新しいマンションの住民説明会でも「みなさん今日から仲間ですから!老後を考えて今から町内会で一緒にやっていきましょう」と話すと、みなさん全員が拍手してくださいました」
このように「一緒に」という姿勢でいると「お手伝いができることがあったら何でも言ってください」と、みなさんからお声を掛けてくださいます。なので、私も行事があるたびにお声掛けをさせていただくのですが、こういった空気が新しい方でもスムーズに町内会での交流に参加できているきっかけになっているような気がします」
――内野さんは生まれも育ちも所沢なので、やりやすい部分も多いですか?
「そうですね。ほかの町内にも気軽に話せる同級生や幼なじみが多く、互いに町内の役員をやっていたりするので、他の地域とも連携が取りやすいです。昨年は、盆踊りを盛り上げるため、東町に日吉町と元町東町を加えて3町内会合同で開催しました。好評でしたので、今年はもう1つ元町本町が加わり、4町内会合同の盆踊り大会をおこないます」
「このように町内会同士が交流することで、「安心・安全」が町内だけでなく、この地域全体に広がると思うんです。防災についても同様で、他の町内会でもマンションを巻き込んだ「自主防災連絡会」を作り、町内会同士で連携すれば、所沢旧町地区一帯の防災対策ができるのではないかと思います」
――今後はどのような町内会にしていきたいですか?
「所沢は、お祭りや盆踊り、重松流などの伝統芸能が残る「現代」と「田舎」の文化が上手くマッチングできている珍しいまちです。大人たちが昔からの伝統文化を次世代に引き継ぎ、地域のコミュニティ活動を盛んにすることによって、子どもたちへのふるさとづくりができます。海も山もあるわけではないけれど、「東町にはいい人がいて、楽しかった」という思い出を残してあげられるような人づくり、仲間づくりができる町内会にしていきたいですね。これからも新しい住民の方にも、抵抗なくどんどん入ってくれる町内会を目指していきます」
-インタビューを終えて-
「町内会加入率9割」という驚異的な数字に、初めは驚かされましたが、内野町内会長の「一緒にやりましょう」という自治運営方針を伺って納得しました。安心・安全なまちづくりは、決して他人事ではなく「自分事」として考えてもらうために取り組んだ結果、「入りたくなる町内会」になっているんだと感じました。
町内会長としてのたくさんのご苦労もあると思いますが、苦労も「楽しさ」に変換して前向きに取り組んでおられるように感じましたし、きっとその姿勢に賛同している住民も多いことだと思います。
東町は、これからもどんどん都市化が進んでいくと思いますが、そんな中でも古き良き伝統は守りつつ、コミュニティ活動に重点をおいた取り組みは、子育てのしやすい、老後も安心できる「居心地の良い町」として成長していくのではないでしょうか。