所沢で地域活動をしている方々の
インタビューをご紹介します。
かつて、どの商店街にも町のコミュニティ機能としての役割がありました。近年は時代の流れとともに全国的に商店街の活気も薄らいできています。県道179号所沢青梅線沿いに、かつては住民の生活に必要なものが一通り揃う店が並んでいた所沢地区の「金山町商店街」もその1つ。現在は店舗数が減ったものの、金山町では町内会の交流を深める工夫によって、町のコミュニティ機能を維持しています。今回は、金山町町内会の会長を務めている落合智之さんに、その工夫についてお話を伺いました。
落合 智之(おちあい ともゆき)さん
1951年、所沢市久米の商家に生まれる。4人兄弟の末っ子。県立狭山工業高等学校の電気科に進学。卒業後、東京・世田谷の電気工事会社に住み込んで3年間修業を積む。22歳で所沢に戻り、その後、兄と共に所沢で電気工事の請け負い会社を設立。1982年に結婚。妻の実家のある金山町に移り住む。所沢小学校PTAの支部長を経験。金山町商栄会会長、金山町町内会副会長を経て、2013年、金山町町内会長に就任。現在に至る。
――落合さんは金山町に住んでどのくらいになるのですか?
「結婚して家内の実家のある金山町に来ましたので、もう37年になります。人生の半分以上は金山町に住んでいることになりますね。私は生まれも育ちも所沢市の久米なので、来たばかりの頃は金山町のことはあまり分からず、知り合いもいませんでした。家内にいろいろ教えてもらって、町の人と早く馴染もうとしていました」
――地域で知り合いを増やすためにどんなことをされましたか?
「金山町は気持ちの温かい人が多いので、ご近所さんにはすぐに馴染めましたが、知り合いが増えたという点では、小学校のPTAの支部長に就いた事が大きなチャンスになったと思います。この地区のPTAの支部長になると、地域の行事にもPTAの団体長として声をかけられますので、積極的に顔を出すようにしていましたし、金山町内の行事にも率先して参加していましたので、仲間も増え、みなさんからも覚えていただくことができました」
――知り合いが増えると地域活動も楽しくなりますよね?
「そうですね。金山町では、PTAの会長や支部長の後に就く役職が、金山町の商店組合『金山町商栄会』の役員と会長、その次は町内会の役員で、最後に町内会の会長になるのが一般的です。私はもう一通りの役職を経験させていただいたことになります。でも今は金山町商栄会に加盟する会員も少なくなりましたから、これからはその流れも変わるかもしれませんね」
――長年地域活動をされていますが、金山町の魅力は何だと思いますか?
「金山町の一番の魅力は、昔から人と人との付き合いを大切にしていて、住民同士の結束力が強いというところでしょうか。気持ちの温かな人が多く、特に新しい住民でも分け隔てなく迎え入れる気質があります」
「私が金山町に来た時もそうでしたが、町で行事があるたびにご近所さんが声をかけてくださるので、仲間に入りやすかったですし、他の町から移り住んだ私が今、町内会長をさせていただいているのも、そういった気質があるからこそだと思います」
――金山町の主な行事にはどんなものがありますか?
「毎年、みなさんが楽しみにしてくれているのが盆踊り、ところざわまつり、体育祭です。盆踊りは、7月最終土曜日におこなっていますが、会場になっていたグラウンドが数年前からなくなったので、武蔵野銀行さんのご厚意で、駐車場を借りておこなっています」
「金山町には、残念なことに広場がないんですよ。踊り子さんも減ってきているということもありますが、会場の広さが狭くなったので、今までの『金山町盆踊り大会』という名称から『金山町盆踊り子供まつり』に変更しました。規模が小さくなっても子どもたちの思い出づくりができる祭りにしたいので、ゲームや模擬店も楽しめる子ども中心の祭りです」
――ところざわまつりでは、金山町は他の会場とは違った雰囲気でにぎわっていますね。
「そうなんです。以前、山車がまつりの中心に繰り出してしまうと、金山町の方ににぎわいがなくなってしまうということで、商栄会のほうで対策を考えたんです。はじめは、商栄会でゲームをやったりして試行錯誤していたのですが、そのうちにフリーマーケットを実施してはどうかという案が出て出店者の募集をしたところ、多数集まりました。さらに商栄会が中心となって模擬店も出店したところ、まつりに新たな“にぎわい”が生まれ、まつり客の流れが変わったんですよ」
――どのように変わったのですか?
「以前のまつり客の流れは、所沢駅から元町までで止まっていたのですが、フリーマーケットと模擬店を始めてからは、西所沢駅から歩いて金山町のフリーマーケットを見に来てくれるようになりました。フリーマーケットは、毎年30~40区画の出店があり、古着、雑貨、おもちゃ、古本などさまざまな商品が出品されています」
「そして、数年前からケータリングカーの出店も募集したところ、ケバブや富士やきそば、明石焼きなどの人気のB級グルメのケータリングカーが昨年は15台ほど集まり、まつり客からも好評でした。金山町には商栄会があるのが強みで、商店ならではの知恵と経験でまつり客を楽しませることができるんですね」
――所沢地区の体育祭も町内の主な行事の1つなんですね?
「所沢地区では14町内会・町会が集う行事が毎年いくつかあり、その中の1つが町内対抗でおこなう体育祭です。金山町では、地元愛が強いせいか、勝敗のつく体育祭に力が入ります。金山町からは、毎年150人くらい参加するのですが、昨年は優勝、一昨年が準優勝、その前は優勝していて強いんですよ。特に得点を稼いでいるのが綱引きです。最近は小学校のPTAのお父さん方がどんどん参加してくれています」
――町内行事に参加してもらうためにどんな工夫をされているのですか?
「町内行事があるときには、PTAを中心に声をかけているんですが、金山町には、ずいぶん前から『おやじの会』というのがあり、この会のおかげで町内の絆が強くなっていると思います」
「この『おやじの会』というのは、私がまだ若いころ、当時の町内会長から『おやじの会を作って横のつながりを広げてみてはどうか』と提案されたことから立ち上げたものです。『おやじ』といっても子どもの有無や町内会の加入なども関係なく、町内に住んでいる若手男性を中心にした会で、毎年9月ごろに金山町公民館に集まって、飲んだり食べたりしながら腹を割って話そうという会です。その後に、ところざわまつりと体育祭がありますので、一致団結して行事を成功させるための決起会みたいな位置づけになるのかな。毎年40名前後は集まりますよ」
――体育祭の優勝のカギは『おやじの会』ですね。
「結局、日本人というものは、お酒が入ると本音も話せる関係が築けるんですね。そうすると、意気投合していろいろなことに力を合わせて行こうという気持ちになれるものじゃないかと思っています」
「また行事が終わった後も、反省会をやって、それも若い人たちにも参加してもらう。そうしてまた一緒に楽しく話をしたりすると、自然に輪が広がり繋がりもできて、結束力も強まっているように感じます」
――『おやじの会』の参加者はどのように集めているのですか?
「今は口コミで互いに声をかけながら集まっていますが、立ち上げ当初は、私が人集めをしなくてはいけない立場でした。その当時、町内のソフトボールチームに入っていたので、まずはチームメンバーに声をかけて、さらにそのメンバーが他の人に声をかけて一緒に来てもらうことで、芋づる式に集めました。堅苦しいことは言わず『みんなで一杯やろうよ』と軽い感じでね。今でも、そんな軽いノリでみんなが誘い合って参加し、住民同士が仲良くなれるきっかけづくりの場になっています」
――金山町の今後の課題はありますか?
「盆踊り、ところざわまつり、体育祭の3つの行事は、多くのみなさんにご協力いただけていますが、春と秋に行っている『環境美化活動』にはもう少し参加してほしいです。中学生は学校のボランティアの一環として参加してくださっていますが、一般の方の参加が現在は少ないですね。環境美化活動も一緒に活動することで互いに共通意識を高め、交流ができる良い機会なんですけれどね」
――これから、町内会長さんとして望まれていることはどんなことですか?
「私が町内会長を務めていられるのも、みなさんの協力があってのことだと思っています。望むことは、“変わらない町”であって欲しいということ。金山町の昔ながらの人情味のある温かい金山町のカラーはそのままに、横のつながりを大切にしながら人付き合いのできる町でいて欲しいと願っています」
-インタビューを終えて-
今回の取材をきっかけに、改めて金山町を歩くと、新しい住宅の敷地内に蔵造りなど歴史ある住居も残されていることに気づきました。金山町は、商店街の店舗数は減ったものの、住民たちの結束力はかつてのまま受け継がれ、まつりや体育祭などで発揮されています。
その結束力を養う場となっているのが「金山町公民館」。インタビュー後、落合さんから案内していただきましたが、その公民館は、なんと築100年以上の建物。中には30畳ほどの大広間と広い台所が備わり、住民たちが集まりやすい環境が整っていました。
大抵の場合、町内に「婦人会」がありますが、金山町はそれに加えて、男性版の「おやじの会」も存在。公民館の広い大広間で若い男性住民を中心とした懇親会が開かれ、町の伝統や今後の行事のことなども気楽に話せる場となっているそうです。
また、金山町は婦人会の活動も盛んで、その公民館の広い台所を利用して、行事があるごとに奥さん方が会話を楽しみながら、ご馳走作りをし、手作り料理を住民にふるまうそうです。
こうした気さくで温かみのある気取らない集まりが、金山町の昔から変わらない住民の支え合いの気持ちを生み、引き継がれているように感じました。