所沢で地域活動をしている方々の
インタビューをご紹介します。
かつて、旧鎌倉街道と東川が交差する新光寺の辺り一帯(宮本町1丁目付近)は「河原宿」と呼ばれ、街道沿いの宿場町として栄えていました。所沢の集落の発生はこの辺りではないかといわれている地域でもあります。
また、豊かな自然と清閑な空気に包まれた街中のオアシス、所澤神明社があるのも宮本町です。今回はその神明社の境内にある宮本町会館にて、御年84歳で宮本町の町内会長を務めていらっしゃる松本長寿さんに町内会の取り組みや高齢化への対応についてお話を伺いました。
松本 長寿(まつもと ちょうじゅ)さん
1935年、栃木県小山市生まれ。高校卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)入社。1972年、37歳の時に所沢へ移り住む。1981年、46歳の時にカナダに本店のあるノヴァ・スコシア銀行の東京支店のオープンを機に同行に出向し、定年に至るまで勤め上げる。定年後は都内の治験会社に再就職し、その後シルバー人材センターの仕事に従事。在職中から町内会の活動にも携わるようになり、町内会役員としても事務局長や会計を10年以上務め、2018年に宮本町町内会会長に就任する。
――どのようなきっかけで、町内会の活動に携わるようになったのですか?
「宮本町には親睦会という餅つきやゴルフ、旅行などをおこなう男性だけの集まりがあるのですが、その会にたまたま入る機会があったんです。そうしたら、元銀行員だから親睦会の会計をやってほしいという話にすぐなりましてね。その後町内会の方でも理事になり、会議の場でいろいろと発言をしたものだから、今度は役員を任されることになりました」
「役員時は、事務局員を1年間やって、次の年には事務局長を任されて、7、8年やったかな。その後に会計を担当して、昨年前任の町内会長さんが、やむを得ない事情で急遽退任されることになったので、私が会長を引き受けることになったんです。理由としては、私が町内のことを最も知っているだろうということで。他になかなか成り手がいなくてね。おそらく所沢市の町内会では、私が一番高齢な会長ではないかと思います」
――町内会長としても、元銀行員の手腕が発揮されていそうですね。
「私はどうしても物事を考える際に、数字と結び付けてしまう癖があるんです。これには47万円かかったとか、100万円かかったとかを全部覚えているの。だから無駄にコストがかかってないかとか、こと細かく気になってしまうんですね」
――例えば、経費節減のために見直した事などはありますか?
「まずはLEDでしょうね。宮本町には106基の街灯があるのですが、役員だった時の6、7年前から毎年10基ずつ替えていって、途中から市の援助もあって昨年の3月に全て設置完了となりました。おかげさまで町内の電灯料がこれまでの約半分になり、環境にやさしい街灯にもなったと思います」
「それと、これまで市で行っていた資源回収事業を7、8年ほど前から町内会でおこなうことにした結果、収入も増え、町内会の財政もかなり良くなりました」
「あと、以前宮本町会館には公衆電話があったのですが、昨年の使用件数は僅か4件。そのために年間3万8千円払っていました。これまで災害時に通話が優先される電話だと思って残しておいたのですが、よくよく調べてみたら一般の公衆電話とは違って、家庭電話と同じ優先度だということがわかったんです。それだと費用対効果が合わないという判断で町内会の総会の承認を得て撤去することにしました」
「他には、町内会で開催されるイベント毎に個別で加入していた保険を、町内会のイベント全てに適用される自治会活動保険に入り直したことでしょうか。これまでは小学校下校時の見守り活動や夜間のパトロールなどに関しても保険に入っていなかったんです。今後何かあったら大変ですからね」
――他にも任期中に変えたいと思っていることはありますか?
「一番想いとして強いのは、お祭りの道具やテントなどを保管している宮本町会館隣りの倉庫の建て替えです。元々中古住宅を購入して倉庫にしたのですが、もう建物がだいぶ古すぎて倒壊してしまいそうなんです。早急に建て替えなければと思っているのですが、建築費用だけで1千万円以上はかかりそうなんです。積立金だけではとても賄えないので、もう少しお金を貯めて不足分は金融機関からの借入れが必要だと考えています」
「もっと言えば、山車の修理などに備えた積立もしていかなければなりません。こうした事を会長になると本気でやらなければならないと強く実感しているところです」
――宮本町の町内会の加入率はいかがですか?
「全約1,400世帯のうち、加入しているのは800世帯ぐらいでしょうか。宮本町はワンルームも多いですからね。ただし、前町内会長の時からアパートやマンションにも出来る限り掲示板をつくって、町内行事などの広報活動はおこなうようにしているんです。アパート、マンションに住まわれている方も町内の一員ですからね」
――加入されていないのは若い世代の方ですか?
「いいえ。若い世代の方、特に戸建て住宅を購入して新しく住み始めた世帯は、皆さん入ってくれてますね。加入されていない方のほとんどは高齢者なんです。一人暮らしの方なども多いですから、お年を召されてから班長になって町内会費の集金や回覧を引き受けることに負担を感じていらっしゃるのでしょうね。でも実際には、班で話し合って高齢の方には班長の仕事をやらずにすむようにしているんです。もっと高齢の方にこそ、いろんな活動に参加してもらいたいですからね」
――高齢の方に加入していただくための対策は何かお考えですか?
「加入するメリットを何か作るということでしょうね。役員全員で決めることですので、まだ具体的なことは何も申し上げられませんが、何か便利屋的なことをやってあげるとか。困っている人を助け、孤立する人をなくす。助け合い運動のようなことをしていきたいと思っています」
――町内では、どんな活動が行われていますか?
「まず、65歳以上の人が入れる『長生クラブ』という会がありまして、現在77名の会員で活動をおこなっています。このクラブは町内会の役員が多く関わっているので、町内会との仲がとてもいいんです。ですから町内会と合同で年1回はバス旅行へ行ったりしています。若い人はひとりでも自由にどこへでも出かけられますが、高齢の方はそうはいかないですからね。金額的にも1万円位かかるところを、町内会と長生クラブ、市からの補助により3千5百円ぐらいの費用負担で参加できるようにしているんです。お蔭様で新しい参加者が年々増えています」
「その他にも2年程前から月1回、宮本町会館の2階で『ディスコン』というカーリングに似た競技も行っているんですよ」
――「ディスコン」とは具体的にどのような競技なのですか?
「赤と青の2チームに分かれて、それぞれのチームに与えられた6枚のディスク(円盤)を投げて、どちらが予め設定した黄色いポイントに近いかを競うスポーツです。カーリングとほぼ同じなのですが、違うのは誰でもできるということ。90歳以上の方でも参加しています。人数も2人以上であれば何人でやってもいいですし、初心者でもすぐ主役になれるんです。自然と笑いや歓声が沸いて、会話が弾むのも魅力ですね。ちなみにディスコンは日本(岡山県)発祥のスポーツなんですよ」
――このスポーツは、松本さんが導入されたのですか?
「そうです。たまたま所沢地域包括支援センター主催でデモンストレーションをやってくれたのを機に、これは沢山の人に参加してもらえる競技だと思い、事務局の三澤さんと前町内会長に相談して導入しました。実はそれまでにも、より多くの参加者を集めようと、将棋や麻雀などいろいろ企画はしてみたんですが、全く人が集まらず上手くいきませんでした。」
「そんな時にこのディスコンを知ったんです。今頑張って流行らせているところなんですよ。私は所沢地区のディスコンの役員もやっていますから」
――宮本町の魅力はどんなところだと思われますか?
「町内会の組織がしっかりとしているところでしょうか。町内会というと、会長が何でも一人で仕事を行ってしまいがちですが、宮本町は会計、事務局とそれぞれがしっかり役割を果たしてくれているから、私は各町内会の中で一番楽な会長だと思ってます」
「また、宮本町の公民館主催の地域活動が、多岐にわたって活発に行われているのも特長の一つでしょうね。年2回の写真部による写真展示会やハワイアンコンサート、正月には羽根つき大会、夏は神明社境内で飯盒カレーパーティなど様々な行事をおこなっています。あと、何より誇りに感じているのは、町内会の活動内容やお知らせ事項を載せた機関紙「河原宿」を毎年発刊していること。昨年40号の記念号を発刊したのですが、このような機関紙を40年もの間、代々受け継いで発刊しているのは、宮本町ぐらいなのではないかと思いますよ」
「その他に長生クラブでは、健康体操や民踊、そして月一回神明社境内の掃除を社会奉仕の一環としておこなっています」
――今後どのような町にしていきたいですか?
「高齢者を含め、皆が和気あいあいと仲良く町内行事に参加できるような町にしていきたいですね。盆踊りやお祭りで人が集まり、集まった場所で皆が声を掛け合うことによって、地域の親密度が高まっていきますからね」
「そういった意味では、宮本町は神明社があることで、大勢の人が集まっても行事を催せる、とても恵まれた地域だと思います。狭い場所で盆踊りを行っている地域などもありますからね。こうした町の行事や日頃の町内会活動に、どんどん参加してもらえるような取り組みを行っていきたいと思います」
-インタビューを終えて-
皆さんは町内会費の使途について気になったことはありませんか。松本さんのお話を伺っていると、無駄な経費は徹底して見直し、町の将来を見据えて使うところには使う。町内会の運営において極めて大切な部分を再認識させられたような気がしました。
運営費の面だけでなく、現実を直視しながら、できるだけリアルな日常に寄り添った支援活動を行おうとしている松本さんの姿勢には、敬服させられるものがありました。また、松本さんは御年84歳にして、年間100日ほど町内の仕事に携わられているとのこと。きっと体力の面においてはとても大変なお仕事だと思うのですが、むしろ楽しみながら取り組まれているようにも感じられました。役割と責務を持って何かに関わっている方は、いつまでも若々しく輝いている。松本さんご自身が健康長寿の秘訣を示しているように思います。
さらに、今回の取材で“ディスコン”という競技も初めて知りましたが、難しいことは何一つなく、純粋に誰もが楽しめそうな、とても魅力的なスポーツだと感じました。その競技が行われている宮本町会館は、歩いているだけで清々しい気持ちになれる神明社の境内にあります。普段、家にこもりがちな方がいらっしゃれば、神社の新鮮な空気に触れてリフレッシュするついでに、ディスコンのような気軽に始められる遊びに参加して少し体を動かすのも、心身ケアと健康管理をおこなうには打って付けではないかと思います。