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不動産に関するお役立ちコラムや、所沢の街づくりに関わる方々へのインタビュー、
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ほくとと

所沢で地域活動をしている方々の
インタビューをご紹介します。

  • ほくとと インタビュー

深井醤油 (株)|深井隆正さん

深井隆正さん

「所沢名物は何ですか?」こう聞かれて、みなさんは即答できるでしょうか。今回は、“所沢をブランド化して、まちの価値を高めたい” と所沢の歴史と食文化の側面からまちづくり活動を行っている深井隆正さんに取材させていただきました。深井さんは所沢で160年以上続く老舗企業、深井醤油株式会社の後継者としても注目されています。老舗企業の後継者ならではの、まちづくりに対する考えや地域に対する想いについてお話いただきました。

深井 隆正(ふかい たかまさ)さん

1985年6月9日生まれ。安政3年(1856年)から続く所沢を代表する老舗企業「深井醤油」の5代目社長 深井保壽(やすとし)さんの長男。小学校から高校まで東京・吉祥寺の成蹊学園で学び、明治大学政治経済学部経済学科へ進学。卒業後、株式会社りそな銀行へ入社し6年余り在籍後、2015年に家業の深井醤油株式会社へ入社。取締役兼総合企画部長として、地域の製造業や飲食業とコラボレーションしながら地元の新しい土産品やブランドの企画・プロデュースを精力的におこなうなど地域活性に繋がる活動を展開。代表的なものに2017年3月に地元名物として誕生させた「ところざわ醤油焼きそば」がある。

  • 深井隆正さん
小学生で認識した所沢への想い
地元の人たちに支えられてきた家業の歴史

――幼少期は、どのように過ごされていましたか?

「私は生まれも育ちも所沢なんですけれど、実は小学校から高校まで都内の私立学校に通っていました。ですから、子どもの頃の所沢での思い出があまりなく、地元の幼馴染みの友人もあまりいないんですよ」

「それでも、地元への想いは子どもの頃からあったようで、自分では覚えていないのですが、小学校の寄せ書きの『将来の自分』という欄に“将来は醤油屋を継いで伝統を守りたい”と書いてあったんです。親には後を継いで欲しいと言われた記憶がないので、自分で自然にそう考えるようになったのだと思うんですよね」

――小学生で「伝統を守りたい!」とは立派ですね

「それには、きっかけがあって、小学生の頃、夏休みの宿題か何かで、所沢名物である『焼きだんご』の歴史について調べたんです。焼きだんごは明治時代から所沢の名物となったのですが、だんごの品質を統一するために当時の『焼だんご組合』が1串に刺すだんごの数や大きさなどの8つの申し合わせ事項を作ったそうなんです」

「その事項の1つに“醤油は所沢産のヤマホに限る(※ヤマホは深井醤油の屋号)”というものがあったことを初めて知って、子どもながらにハッとさせられたんですね。長年、地元の人たちが焼きだんごを守ってくれたからこそ、深井醤油という家業が長く続けてこられたのではないかと」

  • 深井醤油本店▲安政3年(1856年)から続く家業の深井醤油
     ※写真は2020年4月1日に建替えリニューアルが予定されている本店
経営者の考え方を学んだサラリーマン時代
まちづくりに貢献できるような活動を

――大学卒業後に銀行に就職されたそうですが、どのような動機からですか?

「最終的には家業を継ぎたいと思っていましたが、それまでにサラリーマンとして社会に出ていろいろと勉強や経験を積んでおきたいという思いがありました。中でも銀行を志望したのは、経営に関する知識はもちろん、多くの企業経営者の方々と直接関わり、生の声を聴くことができるんじゃないかと思ったからです」

――経営者の方から得られたヒントはありましたか?

「実際に働いてみると、経営者と銀行との立場の違いにより、考え方も違うところが多いように感じましたが、経営者とはどうあるべきかについて深く学ばせていただいたように思います」

「企業の寿命は長くて30年といわれ、絶えず変化する時代の中で生き残っていくのは至難の業ですが、そんな中でも長きに渡って会社を存続することができている経営者の方々には、ある共通点があることに気づきました。それは、地域や社会に対してどう貢献できるかを常に考えながら事業をおこなっていること。そのような経営者の考えを肌で感じるうちに、自分も地元のまちづくりに貢献できるような活動をしてみたいと思い始めたんです」

「そんな気持ちが高まった頃がちょうど30歳を迎える年だったので、年齢的な節目を機に銀行を退職し家業に入ることを決意しました」

――地元で活動していくために何から始めたのですか?

「まずは早く地域に馴染みたいと思いました。そこで、後継者育成塾や若手経営塾、所沢市主催の『農商工連携のためのきっかけづくり交流会』など、まちづくりに関わるような勉強会へ積極的に参加することから始めたんです」

「参加して驚いたのは『所沢で頑張りたい』『地元のために何かをしたい』と熱い想いを抱く人が沢山いたこと。私も“食”で地元に貢献できる何かをしたいという想いがありましたから、同志が沢山いたことは私の原動力にもなりました」

「具体的には、まちの食べ飲み歩きイベント『ソラバル』の実行委員会へ加わり、地域や商店の活性について考えを深めることができましたし、『ところざわ醤油焼きそば』という新しい名物づくりへのチャレンジもここから始まったように思います」

  • ソラバル実行委員▲地域や商店の活性を目的に「ソラバル」実行委員として活動をおこなう深井さん
食文化は地域ブランディングの強力なコンテンツ
所沢の歴史が詰まった「ところざわ醤油焼きそば」を開発

――「ところざわ醤油焼きそば」は、どのような想いでの挑戦だったのですか?

「地域の食文化は、観光振興や地域を知ってもらうためには欠かせない強力なコンテンツです。食文化の背景には、必ずその土地の歴史があり、またその歴史は地域の魅力と価値を生むからです。なので、『所沢の食文化を象徴する何かを作りたい』。そんな想いからの挑戦でした」

「昔から所沢は、水田での稲作に適していなかったことから、小麦や陸稲(おかぼ)を用いた料理が多く食されていました。小麦を用いた『うどん』、陸稲を用いた『焼だんご』はその代表で、どちらも今なお所沢名物として親しまれていますよね。これらの名物に次ぐ、新しいご当地グルメとして所沢の老舗製麺会社『見澤食品』さんや、元町にある創業130年超の老舗小料理店『新むさし』さんとコラボレーションして開発したのが『ところざわ醤油焼きそば』なんです」

「ちなみに、『ところざわ醤油焼きそば』とは、所沢産の麺と醤油に地場産野菜を1品以上使ったものと定義づけています。比較的緩く感じるこの定義は、誰にでも簡単に作ってもらえるように、また様々なアレンジにより『ところざわ醤油焼きそば』や所沢産食材の可能性をみなさんの手で広げてもらいたいという想いを込めてのものなんです」

  • 地域イベント出店▲地域イベントへ出店するなどして所沢の食文化を広める深井さん
地域活性を願った食品加工所の移転
跡地には生活に役立つ商業施設を誘致

――ところで、製造場所を有楽町から北岩岡に移転されたのはなぜですか?

「移転の理由は大きく2つあって、1つは老朽化、そしてもう1つは周辺環境の変化です。父もこの2つの問題に長年悩んでいましたが、最終決断は『息子が戻ってから』と今までの環境をずっと守り続けてくれていました」

「特に周辺環境については高層マンションが立ち並び、今もなお建設が進んでいますので、地域住民の利便性や生活面を考えると、ものづくりは、ものづくりに適した場所へ移設し、もともとの場所は地域のみなさんの生活に有効活用できる場にした方が地域活性にも繋がるのではないかと考えました」

――跡地は、どのような形で有効活用される予定ですか?

「スーパーのヤオコー、そのほか生活用品店といった商業施設が建設されるようです。工場の取り壊しにあたっては、歴史ある建物だったので、私としてはやはり残念な気持ちが正直ありました」

「ただ、ヤオコーさんのご厚意によって、もともとある蔵をいくつか残し、その中の1つはお客さまにも地元老舗醤油屋としての歴史を感じてもらえるような工夫をしていただけることになりました。改めて周囲からの支えを肌で感じましたね」

「ヤオコーさんも古くからの酒蔵が残る埼玉県比企郡小川町から発展した老舗会社なので、私どもの老舗の気持ちを理解してくれたのだと思います」

  • 深井醤油の工場跡地▲商業施設の建設が進む深井醤油の工場跡地(令和2年1月24日撮影)
  • 深井醤油の歴史ある蔵▲ヤオコーさんのご厚意で修繕して残されることになった歴史ある蔵
一人ひとりがシビックプライドを持てるように
ふるさと「所沢」を誇れるまちへ

――所沢を魅力ある街にするために、必要だと思うことはありますか?

「私が参加するまちづくり勉強会でもよく言われていることですが、所沢でも市民一人ひとりが『シビックプライド』を持てるようなまちにしていくことが必要だと感じています。シビックプライドとは、自分が住むまちに対する当事者意識を持った誇りや愛着のことを指しますが、郷土愛をお持ちの方でも『所沢には何もない』とおっしゃっているのをよく耳にします。本当にそうでしょうか」

「所沢は、プロ野球チームの本拠地があり、日本初の飛行場ができた航空発祥の地でもあり、都心近くにありながら自然が豊かでトトロの森や湖もある。食では、高品質な里芋の収穫量が全国2位、日本茶の三大銘柄である狭山茶の産地、その他にも所沢で採れた農産物を使った日本酒、焼酎、ビール、また高級ホテルでも使用されている所沢牛などもあります」

「そういった所沢の誇れるところを一人ひとりが知り、周囲へ発信することで魅力が更なる魅力を生み、人が集まり、消費も増え、所沢のまちの価値が適正に評価されるようになるのではないかと思うのです」

「また、所沢は昔から地域内での絆が強い気質がありますが、所沢の発展のためには農業、観光業、工業、商業の多業種が互いに連携し、もっと近隣の飯能市、入間市、狭山市、清瀬市などの地域と共にまちづくりを行えると、より付加価値のある街に成長できるんじゃないかとも思います」

――今後、力を入れていきたい取り組みがあれば教えてください

「所沢は、今、マンションの建設ラッシュで子育て世帯が増えつつあります。所沢で育つ子どもたちに将来『所沢に生まれてよかった』『所沢に住んでよかった』『所沢にずっと住みたい』、そう思ってもらえるような活動ができたらと思います。そのために今の私にできることは、所沢の食文化について伝えていくこと」

「先日も小学校のPTAから所沢の食についての講演会の依頼があり、お話しさせていただきましたが、うどんや焼だんごなどの地元食文化や現在の食に関する地域活動について、ほとんど知らない親御さん方も多いことに改めて気づかされました。そう考えると、もっと多くのご家庭に所沢の食材や味を普及させる食育活動から始める必要があるのかもしれません」

「また、所沢で育った子どもたちが、大人になって他の地域に移り住んだとしても『所沢の味が忘れられない』『所沢に帰って食べたい』と言ってもらえるような“所沢の味”を作り、所沢の食文化の歴史を守りながら未来へつなぐ活動をしていきたいですね」

  • 深井隆正さんの講演活動▲PTA向けに「所沢の食」に関する講演をおこなう深井さん

-インタビューを終えて-

生まれも育ちも所沢でありながら、所沢のことをあまり知らずに育ったという深井隆正さんですが、所沢で地域活動を始めてたった4年ほどで地元の課題を見出し、地域の人たちと一緒になって様々なことに果敢に取り組んでいます。

深井隆正さんの「所沢の食文化を多くの人へ伝え、所沢の価値を高めていきたい」というお話を聞きながら、内に秘められた想いを知り、単なる漠然とした発想ではなく、きちんと道筋を考えられた未来像であることを感じました。

今、所沢は所沢駅西口・東口の大規模再開発に加え、東所沢では来年夏にところざわサクラタウンがオープンします。それだけで、所沢が活気ある街に生まれ変わるのではないかと期待が高まりますが、深井さんのお話では、それだけでは不十分で、変革の今だからこそ所沢市民一人ひとりがシビックプライドを持って生活をしていくことが必要であると強く訴えています。確かに所沢の名所に行ったこともない、名産品を食べたこともないということでは、他地域の人に所沢の良さを伝えられるはずがありません。

また、地場の様々な業種が1つになって地域の魅力を広く伝えながら地域全体の価値を上げ、また、近隣地域と連携してまちづくりに取り組もうとされているのは、非常に合理的な方法だと思いましたし、その考え方に感服しました。

今は後継者問題などで老舗店や伝統が途絶えやすい時代でもありますが、所沢には深井さんのようなお考えで積極的にまちづくりに取り組んでいる若手後継者が多くいる。そのこと自体も、この所沢のまちに誇りが持てることの1つではないかと思います。

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