所沢で地域活動をしている方々の
インタビューをご紹介します。
ご自身やご家族に介護が必要になった時、まず何をすればよいか頭を悩ませることが多いのではないでしょうか。どのような形で介護を受けるのか、介護保険は使えるのか、最期はどこで迎えるのか。そんな時、力になってくれるのがケアマネジャーです。今回は、所沢でケアマネジャーとして高齢者とそのご家族に寄り添う、志水光子さんにケアマネジャーの役割や抱える課題について教えていただきました。
志水 光子(しみず みつこ)さん
新潟県生まれ。将来の両親の介護を見据え、ヘルパー2級の資格を取得したことをきっかけに、福祉住環境コーディネーター、福祉用具専門相談員、介護事務の資格を取得し、介護事業所でヘルパーとして従事。その後、介護福祉士、ケアマネジャーの資格を取得し、居宅介護支援事業所 ライフプランに転職。現在に至る。
――ケアマネジャーになったきっかけを教えてください
私は実家の両親と離れて暮らしているのですが、両親と会うたびに老いを感じ、ある時から『いずれ2人の介護をしなければいけない』と強く意識し始めたんですね。そこで来るべき時に備え、ヘルパー2級の資格を取得したのが最初の一歩でした。
実際にケアマネジャーの仕事を始めてみると、外から見る以上に大変で。いろいろな知識を身につけ経験を積んでも、人相手の仕事ですから全く同じ介護状況はないんです。なので固定のマニュアルに沿ったような仕事のやり方はできません。介護を受けるご本人とご家族の考えや、金銭的なご事情、環境など全てを鑑みて個々に最適なケアプランをご提案するのはとても難しいのですが、大きなやりがいを感じています。
――ケアマネジャーの役割を教えてください
介護サービスの利用希望者のご自宅にお伺いし、何に困っているのか、これからどういう生活を送りたいのかをヒアリングして、介護の計画書である『ケアプラン』を立てます。介護保険を使用する場合は各事業所と調整して保険適用を推進するなど、様々な面から利用者が過ごしやすい生活をサポートするのが私たちケアマネジャーの大きな役割です。
ただこれらは、あくまで業務としての役割で本質ではありません。ケアマネジャーの本質的な役割は、利用者とそのご家族の心のケアをすることだと思っています。介護が必要になった利用者はもちろん不安だと思いますが、そのご家族もご自身の生活を守りながら介護に携わり続けるのは非常に大変です。なのでご本人だけでなく、ご家族にも寄り添い、『あなた自身は眠れているか、食事は摂れているか』など電話で尋ね、異変がないかを常々確認しています。
ケアマネジャーは、ご本人とご家族の深い部分まで入り込むことで、双方にとってより良いサービスが提供できるんです。だからこそ、きちんと目線を合わせ、信頼関係を築くことを大事にしています。
――ケアプランを作成する時に心がけていることは何ですか?
ご本人とご家族が真に望む生活環境をどのように支えていくかを第一に考えています。
最近は、施設ではなく、ご自宅で過ごしていただくための支援が多くなっています。ご家族から『入院している父(母)を連れて帰りたい』とご相談のお電話をよくいただくんです。でもそれは正しい選択なのか、多くの方にとって慣れない経験だからわからないんですね。ご自宅に帰ることで、ご家族の方は様々なご苦労があると思うのですが、後日、ご自宅で最期をお見送りしたご家族の方から『短い時間だったけれど、自宅で過ごさせてあげられて本当に良かった』と泣きながら感謝のお電話をいただくこともあります。それほど自宅で過ごす時間は、多くの人にとって価値あることなんです。
また、利用者ご本人がご家族との関係を気にするあまり、本心ではない意向を口にする場合もあるんですね。たとえば、本当はご自宅で過ごしたいのに、ご家族に遠慮して『病院にいたい』とおっしゃる利用者もいます。一方、本当は自宅で介護をしたくても仕事などの都合でどうしても難しいという事情を抱えるご家族もいます。本心がわからなければ、ご本人やご家族それぞれにとって最適なケアプランはつくれません。なので、入念にヒアリングするよう、いつも心がけています。
――認知症などのご事情で、利用者ご本人のご意向をお聞きできないこともありますよね
そうですね。そのようなことを防ぐために『元気な方はいまのうちに人生会議をしてください』とよくお話しています。人生会議とは、その方がこれまでどういう人生を送ってきて、どんな最期を迎えたいかを家族などに話す機会です。『認知症が進んだら施設に入れてほしい』『通帳はどこにしまってある』などの要望や情報を、あらかじめ家族で共有して欲しいです。日本人は、そういう話を『縁起が悪い』と敬遠しがちですが、笑いながら話せるうちにご自身の意思をご家族にお話しておくことが、ご家族の悩みや揉め事をなくすことにつながるのです。
誰しも、親が老いていくという現実を直視しづらいと思いますが、後々「父だったらどうしたいと言うだろう」などと悩まないために、ぜひ一度考えてみてほしいです。
――ケアマネジャーの目線で、介護業界にはどのような課題があるとお考えですか?
人材不足ですね。業界ではいま、人材確保のためにもヘルパーやケアマネジャーなど介護職の地位向上を目指していますが、なかなか思うように進んでいません。それもあって『なりたい』と思ってくれる方が少なく、困っている方たちに十分なサービスが行き届かないという課題があるんです。
たとえば行政では、介護が必要な高齢者が可能な限り自宅で自立した日常生活を送れるよう「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」を利用することを推奨しています。これは、訪問介護員または訪問介護士が1日に複数回にわたって、要介護者の自宅を1回10〜20分程度訪問し、短時間の身体介護を中心に対応するものです。しかしこのサービスを実際に利用しようとしても、ヘルパーが足りないこともあり、なかなか利用できません。この根本的な課題を解決するためには、まだ多くの時間がかかりそうな状態です。
――介護職の不足を補う意味でも、地域包括ケアシステムという考え方が注目されていますね
地域包括ケアシステムとは、誰もが住み慣れた場所で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられるよう、「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」の五つのサービスを総体的に提供し、ケア体制を構築しようという考え方です。つまり介護職だけでなく、地域ぐるみで高齢者をケアするという発想で、所沢市でも取り組んでいますが、なかなか仕組みとしては進んでいないように思います。
そんな中、地域包括ケアシステムの基盤構築を推進するにあたり、まず必要だと思うことが二つあります。一つは、ケアマネジャーが何をしている人なのかを知ってもらうこと。「こういう内容だったらケアマネジャーに相談できる」と皆さんがもっと認知すれば、地域の困っている方たちを適切なケアに導きやすくなるのではないかと考えています。
もう一つは、一昔前のような地域のつながりを持つこと。いまの時代、なかなか難しいとは思いますが、地域の方たちに対して住民一人ひとりが少しずつお節介になれるといいですよね。最近ちょっと元気がないお隣のおじいちゃんに、挨拶と同じくらい気軽に「最近困ったことない?」と話しかけられる関係が理想です。
まずは高齢者の生活に必要とする様々な相談先の充実や近隣住民間で横のつながりをつくるなど、困っている人が悩みを打ち明けやすい環境をつくることで、地域包括ケアシステムがより具体性を持ち、実現に向かうのではないかと考えています。
――地域の高齢者の皆さまにお伝えしたいことはありますか?
何か困ったらケアマネジャーや地域包括支援センターなど、専門職や相談窓口に気兼ねなくご相談いただきたいです。特にトイレ、お風呂、食事に困った時、あるいは困っている人が周りにいらっしゃった時なども相談すべきタイミングです。これらは日常生活の基本的な部分なので、ここをケアできれば生活の質が確実に上がります。
他にも、『おじいちゃんが少し歩くのが大変そうなんだけど、誰に伝えればいいの?』『こういう場合は介護認定もらえますか?』など、どのような困りごとでも声をかけてもらえたら嬉しいです。私たちで困りごとを解決できない場合は、他の施設などを紹介いたします。とにかくおひとりで悩まず、まずはご相談いただけたらと思います。
そして、皆様の周りにもしSOSを出せない方がいたら、ぜひ地域の皆さまが代わりにSOSを出してあげてください。そうした隣近所を思いやる気持ちが、誰もがいつまでも安心して暮らせる街づくりにつながるのだと思います。
-インタビューを終えて-
今回の取材では、ケアマネジャーの本質的な役割を知ると共に、介護をする側、される側のことを自分はどれだけ知っていただろうと鑑みるきっかけになりました。
そして、必ず来るであろう介護生活に備えて、私たちが暮らしている地域には、どのような相談窓口があるのか、そして何を備えなければならないのかを今から積極的に知る努力をおこなう必要性を教えられました。
私たちも空き家などの不動産にお困りの方に向けた相談窓口を開設していますが、困った際にどこに相談すればよいのか地域の方が迷わないよう、窓口としての存在を知っていただく一層の努力も必要に思いました。