所沢で地域活動をしている方々の
インタビューをご紹介します。
コロナ禍で人と集う場を失った私たちは、直接誰かと語り合う喜びを改めて認識したように思います。会おうとしたらすぐに会えると思っていた家族や友人に会えない焦燥感は、人とのつながりの大切さを教えてくれたのではないでしょうか。そんなコロナ禍を経て、2023年9月、航空公園で6年ぶりに音楽で人がつながり元気になれる「空飛ぶ音楽祭」が開催されます。空飛ぶ音楽祭実行委員長の加賀谷さんと市役所職員として実行委員会の事務局を担当している澤さんに、音楽祭の開催経緯や音楽をはじめとした文化芸術の持つ力についてお話を伺いました。
加賀谷 崇文(かがや たかふみ)さん
埼玉県浦和市生まれ。1992年に早稲田大学人間科学部に入学し、所沢キャンパスへ通う。その後、大学院に通いながら所沢市内の病院で心理カウンセラーを務める。2003年から秋草短期大学地域保育学科で教鞭を取り始め、現在は地域保育学科長・教授を務める。2007年より所沢市内の保育所で子育て相談に応じながら、所沢市子ども・子育て会議へ参画するなど、行政と一体となって子育て支援施策の充実を図っている。その他、所沢市民フェスティバル実行委員や趣味の活動では所沢市内のライブハウスで演奏するなど、地域で多様な活動に取り組んでいる。
澤 敦史(さわ あつし)さん
埼玉県所沢市生まれ。2000年に所沢市役所に入庁し、国民健康保険課、職員課、企画総務課、保健センターを経て文化芸術振興課へ。「まちなかコンサート」や「ところざわ アートのミライ」など、地域内で人と人とのコミュニティを形成するようなイベントの企画や運営を担当。
ほくとと「空飛ぶ音楽祭とはどのようなイベントなのでしょうか?」
加賀谷「空飛ぶ音楽祭(以下、音楽祭)は所沢航空記念公園(以下、航空公園)と所沢市民文化センターミューズ(以下、ミューズ)を舞台に、所沢にゆかりのあるミュージシャンのステージから、アマチュアミュージシャンの日頃の成果を発表するライブまで、バラエティに富んだプログラムで“音楽のあるまち所沢”の魅力を発信するイベントです。音楽ファンであれば『こんなにすごい人たちが来るんだ!』と驚くと思います」
ほくとと「当日は、航空公園内に3つのステージを作るそうですね」
加賀谷「そうなんです。1つは有料の野外ステージで、梅津和時さん、古市コータローさん、奇妙礼太郎さんなど第一線で活躍するミュージシャンが多数出演します。様々なフェスで活躍するアーティストの方々に出ていただけるのでとても興奮しています。」
加賀谷「他の2つは無料の野外ステージで、アマチュアからプロまでたくさんのミュージシャンが代わる代わる演奏するので、多種多様な音楽に触れられますよ。さらに3つのステージ以外にも、航空公園に隣接するミューズで、日本R&Bの元祖とされる名盤『ほうろう』のシンガーであり、音楽祭立ち上げ当初からお世話になった小坂忠さん(2022年逝去)をトリビュートしたステージなども展開します。また、南イタリアの伝統音楽バンドの演奏などもあり、航空公園のステージとは一味違ったミューズならではの演奏会を開催するので、ぜひそちらも楽しんでいただきたいです。普段は自らあまり聴かないような音楽にも触れて、新たな発見をしてほしいですね」
ほくとと「演奏ステージ以外の催しはありますか?」
加賀谷「子ども向けのワークショップなども実施するので、ファミリーにも気軽に遊びに来てほしいです。アクセサリー作りや貴重なフルートとの記念撮影などを楽しめますし、子どもたちが遊べるブースを秋草学園短期大学の学生が準備しています。キッチンカーも40台くらい来るので、おいしいものを食べながら、リラックスして音楽を楽しめると思います。なので、これまで深く音楽に触れてきたコア層から、あまり音楽には詳しくないライト層まで、あらゆる人たちに来てもらいたいです」
ほくとと「そもそもこの音楽祭が始まったきっかけは何だったのでしょうか?」
澤 「2015年に実施した『所沢を動かす!みんなのアイデアコンテスト』で、航空公園の野外ステージを使ってアーティストの卵を応援するフェスを開催、という市民の方から応募いただいたアイデアが優秀賞に選ばれたのがきっかけです。2017年に1回目を開催し、もともと2年に1回開催するつもりでしたが、コロナ禍などで中止が続いてしまって。今年、6年ぶりに開催できることになりました」
ほくとと「地域住民から、音楽祭の再開を望む声があったそうですね」
加賀谷「コロナ禍を経て人が集まる場所が欲しいという潜在的な気持ちが皆さんの中にあって、それが『またやってほしい!』という声につながったのかもしれませんね。その証拠に、昨年の市民フェスティバルでは例年の1.5倍の人が集まったんですよ。みんな外に出たかったんだなと強く感じました」
ほくとと「空飛ぶ音楽祭ならではの特長は何でしょうか?」
澤「実行委員に市民が多く集まっていることでしょうか。市民一人ひとりが熱い想いを持って、自分の得意分野を活かしながら音楽祭を作り上げています」
ほくとと「音楽祭を作り上げる上で、大変なことは何ですか?」
加賀谷「実行委員は24名いるのですが、それぞれが持つ熱い想いを大切にしながらまとめることですね。音楽を含めた文化芸術って、表現する側や鑑賞する側だけでなく、コーディネートする側も、それぞれ思い入れが深いんです。だから何かを決めようとしたときに、主張がぶつかって意見が合わないことが当然あるんですね。みんな、自分の意見を大切に思っているし、僕自身もみんなには妥協してほしくないと思っているので、その上でものごとを決めるのは本当に大変です。でも逆に言えば、それぞれの熱い想いを掛け算して大きくしていければ、ものすごいパワーのあるイベントにできるはず。空飛ぶ音楽祭は、そんな熱い想いを昇華する場になれば良いなと思っています」
ほくとと「所沢市が事務局となっていますが、運営面で助かる点はありますか?」
加賀谷「僕たち実行委員は、音楽の素晴らしさや楽しさ、パワーをとにかく多くの人に感じてほしいと願っているんです。また、音楽祭で人々が音楽を気軽に楽しみ、つながれるきっかけづくりがしたいですし、市民の手づくりで開催されるこのイベントが地域に根付くことで、所沢の新たな魅力にもなると思っています。それを実現するために、市民と直結した“市”と共催するのは、最大の効果が得られるメリットと言えるでしょう。そういう意味で、とても心強いですね」
澤「市民の皆さんが実行委員として、これだけ熱意を持って運営に参加してくれるのは本当にありがたいですよね。その根っこには『音楽が好き』という共通の熱い想いがあるからだと思います」
ほくとと「市が音楽フェスを実施する事例はあまり聞いたことがなく、またそもそも文化芸術の振興に重きを置いている市は少ないですよね。音楽をはじめとする文化芸術にはどのような効果があるとお考えですか?」
澤「やはり、人と人とをつなげる力があるのではないでしょうか。文化芸術に触れられる場を用意することで、そこに集った人たちがつながり、新たな交流が生まれる可能性があると考えています」
ほくとと「つながりといえば、近年では地域のつながりが希薄になり、高齢者の独居や地域からの孤立も問題になっています」
加賀谷「そうですね。私は普段、臨床心理士として活動していますが、高齢者を含めた全世代で孤立している人が増えているように感じます。その地域に馴染みがなく、なかなか人と交流できないという声をよく耳にするんです。一方、音楽祭を最初に開催したときのコンセプトの一つに、分け隔てなく様々な世代がみんなで集まって音楽を楽しむというものがありました。音楽を通して、地域に住むみんながつながると良いですよね」
ほくとと「所沢市が文化芸術の推進を始めたきっかけは何ですか?」
澤「遡ると、所沢市は昭和25年に市制施行したときから市政宣言に『文化』という言葉を入れていました。もともと宿場町で、人々の暮らしや文化に深く関わる織物の街として栄えてきたので、自然と文化を大事にする気持ちが根付いていたのでしょうね。また戦後に日本軍の基地の跡地を占拠していたアメリカ人の影響でジャズクラブが発展したことから、音楽を楽しむ文化が醸成されました。現在でも音楽をはじめ、様々な文化団体が活発に活動を継続しています。このような特徴を大切に、市として、市民の皆さんに文化芸術に触れる機会や関心への裾野を広げていきたいと考えています」
ほくとと「文化芸術を推進する目的は何でしょうか?」
澤「文化芸術は、人々の心を豊かにし、楽しさや感動、活力をもたらし、日々の生活に彩りを添えてくれます。所沢に住み続けたいと思えるような、憩いの場や居心地の良い環境を作るのに、文化芸術は大きな役割を果たすでしょう。なので、文化芸術に触れる機会が多くある街として、市民の皆さんや他市からも『所沢といえば文化活動が盛んなまち』とさらに認識されるよう文化芸術振興に取り組んでいます」
ほくとと「所沢市はさまざまな文化芸術振興の取り組みをしていますよね」
澤「はい。毎年恒例の『所沢で第九を』という演奏会は、今年で40回目を迎えます。毎年、市民から歌う人を募集し、だいたい200人くらいが集まって迫力のある合唱をしています。また今年は現代美術展『ところざわ アートのミライ』を市内施設3カ所で実施しました。これは2020年に開催した、市制施行70周年記念事業現代美術展『ところざわ アートの潮流』からの流れを受けたもので、より気軽にアートに触れて欲しいという気持ちを込めて企画しました。少しとっつきにくい現代アートをできるだけ身近に感じてもらうため、作品ごとに分かりやすい解説文をつけました。またお子様連れのご家族にも楽しんでもらえるよう、子どもでも解りやすく解説されている鑑賞ガイドを作成したほか、スタンプラリーも実施しました」
ほくとと「加賀谷さんは、大学時代を所沢で過ごし、現在は市内にある秋草学園短期大学で教鞭を取っていますね。所沢にはどのようなイメージを持っていますか?」
加賀谷「早稲田大学の所沢キャンパスで学んでいた頃から、趣味の音楽活動をするようになった最近まで、正直、文化活動が盛んな街であることに気づいていませんでした。実は所沢には音響の良いライブハウスがたくさんあったり、生の音楽を楽しめるカフェやバーも点在していて、散歩中の人がふらっと訪れている姿を何度も見かけています。そうした環境のせいか、所沢にはミュージシャンが多く住んでいるんですよね。今になって初めて、所沢が文化的な土壌や環境が充実した街だと知りました」
ほくとと「今後の夢や目標を教えてください」
澤「所沢市では、音楽を身近に感じてもらうため、年に数回ミニコンサートを開催しています。最近は新所沢駅前のPARCOが会場になっていることが多く、買い物に来た人がふらっと寄ってくれているんです。またグランエミオ所沢にはストリートピアノを設置しており、誰もが気軽に音楽に触れられる場所として人気です。そこでは演奏に対し自然と拍手が湧き、人々の交流が生まれています。このような場が市内に増えて、街を歩くと、ふとした時に音楽が聞こえてくる街にしていけたらと考えています」
加賀谷「僕は所沢にはせっかくライブハウスがいっぱいあって、どこも音響が良いのだから、それを活かしたいですね。お仕事を定年退職された人が、みんなでワイワイしながら音楽を演奏したり聴いたりできるシチュエーションが作れたら良いなと思っています。『定年後、何をすれば良いのか分からない』という声を仕事柄、定年間際の人からよく聞くんです。そういう人たちが居場所を見つけるきっかけになり、人と人との関わりを作れる場を音楽を通して作れたら良いなと思っています」
ほくとと「最後に市民の皆さんへメッセージをお願いします」
加賀谷/澤「音楽祭では、くつろぎながら生の音楽を聴いて、音楽の素晴らしさや音楽に触れる楽しみを、その人なりに感じてほしいと思っています。音楽にこれまで関心の薄かった人にも、まずは会場に来ていただくことで音楽に親しむきっかけになったら嬉しいです」
-インタビューを終えて-
マスクを外して歩く人が増え、外出への足取りが軽くなったアフターコロナの昨今。振り返ると、大変なことが多かったコロナ禍が私たちに気づかせてくれたのは、人とつながる楽しさだったように思います。そして音楽をはじめとする文化芸術は、人々の想いまでつなげてくれるものなのではないでしょうか。人は共通の趣味や価値観があると、つながりやすくなります。そして誰かとつながった場所は、その人にとって大事な居場所になるのです。加賀谷さんと澤さんの熱い想いを伺って、そうしたつながりの大切さを実感しました。
私たち北斗不動産グループも、地域住民の皆さんがつながり合いながら生き生きと暮らせる場所をつくる一助となれるような活動を、これからもしていきたいと思います。