所沢で地域活動をしている方々の
インタビューをご紹介します。
企業勤めを引退したのち、趣味やスポーツを楽しむ毎日を夢見る方は多くいらっしゃいます。ですが、実際は時間を持て余し、自宅でテレビを観るだけの毎日を過ごしている、なんていう声も聞こえてきます。そんな中、定年後に自ら人や社会と交流の図れる場へと足を運び、積極的に地域ボランティアへ精を出しているのが、今回取材をさせていただいた納富信夫さん。
現在、地域福祉サポーターの所沢地区代表として、地域高齢者、不登校児童、障がい者などが交流の図れる場づくりを中心に精力的に活動されています。今回は、そんな納富さんに地域福祉サポーターになったきっかけやその役割、やりがいなどについてお話を伺いました。
長野県須坂市生まれ。東京理科大学を卒業後、パイオニア株式会社に就職し、主に生産技術や設計、OEM営業を担当。60歳で退職した後、地域交流や学びの機会を求めて所沢高齢者大学や埼玉いきがい大学に通う。同時期に所沢市地域福祉サポーター養成講座を受講し、カリキュラムを修了。2019年からは地域福祉サポーター所沢地区の代表を務め、サポーター定例会の開催や地域交流コミュニティ「第2にゃんず」の運営を手掛ける。
――地域福祉サポーターの役割を教えてください。
地域福祉サポーターは、日常生活の身近なところで起きている課題や問題などを発見し、その解決に向けて社会福祉協議会や民生委員などと連携を図りながら、誰もが安心して暮らせる環境づくりを支援しています。社会福祉協議会が運営する養成講座を修了し、登録すると正式に地域福祉サポーターになることができます。私の場合、偶然に養成講座のチラシを見かけて興味を抱き、地域の人たちと密に触れ合う良い機会になればと思い、受講しました。
――もともと地域の人たちとの交流はあったのですか?
私はいわゆる「団塊の世代」で、仕事一筋で生きてきたタイプの人間です。長く働いたら働いた分だけ評価される時代だったこともあって、休日に地域イベントなどに参加するようなこともありませんでした。ご近所の方々とは道端で出くわしたら挨拶をする程度の付き合いで、正直どんな人かもわからない。なので、退職後に深いお付き合いのできる間柄の方はいなかったんです。でも、ずっと家に閉じこもっているのもどうかと思い、図書館などに通ってもみましたが、やっぱりどこか味気ない。そこで向かったのが、所沢市が運営している高齢者大学で、コミュニティづくりやサークル活動に勤しみ、その後には埼玉県が主催するいきがい大学などへも通い、同じまちに住む人たちとの交流を徐々に始めていきました。
――幅広く活動されてきたのですね
シルバー人材センターにも登録して、いくつかアルバイトも経験しました。市内のインターナショナルスクールで事務員をしたり、高齢者のご自宅へお弁当を運ぶ見守り配食の仕事をしたり、公民館の受付などもしました。そうした仕事をする中で、地域の役に立つことの喜びや、それがやりがいに変わっていくことを感じるようになっていきました。
――地域福祉サポーターとしてどのような活動をされているのでしょうか?
地域福祉活動を推進する社会福祉協議会のCSW(コミュニティソーシャルワーカー)と地域との橋渡しのような活動をしています。月に一度、社会福祉協議会主催の定例会に所沢市内11地区の代表が集まり、地域課題の解決に向けた話し合いをおこなっていますが、私も所沢地区の代表として参加しています。そこで出た提案や議論の内容を、今度は所沢地区の地域福祉サポーターの集まりに持ち帰り、地域内でどのように解決していくかを相談して実行していくことが主な活動の流れになります。
――現在、どんなことに力を入れていますか?
今、特に力を入れているのが、地域の誰もが参加できる憩いの場「第2にゃんず」の運営です。雑談やゲーム、体操などをしたり、食事会を催したりと、地域の方々がコミュニケーションのとれる場となっています。
――地域住民が交流できる機会を設けているのですね
地域の方々の中には、何かの事情で余儀なく孤立されている人、行き場を失っている人などもいて、人と触れ合える場を求めている人は少なくありません。そうした人たちの情報を民生委員や地域の方々から受けて、地域の集まりへの参加を呼び掛けていくのは私たちの役目だと思っています。ただ、地域福祉サポーターひとりの力で伝えられる範囲には限界があります。より多くの人に地域の集まりに参加してもらうためには、商店街や町内会といった、より大きなコミュニティの協力が欠かせません。そうした団体と連携していくことも今後の課題と考えています。
――「第2にゃんず」をどのような方に利用してもらいたいですか?
老若男女問わず、地域住民ならどんな方でも歓迎しています。目指しているのはまさに“バリアフリー”の集まりで、実際に高齢者をはじめ、生きづらさを抱えている方などもご利用いただいています。夏休みには小学生や中学生が見学に来るなど、若い世代との交流の場にもなっているので、この活動を通してさらに地域の輪を広げていきたいです。そのためにも広報活動など自分たちでできることがまだまだあると感じています。
――地域福祉サポーターにはどのような方が参加していますか?
やはり地域の役に立ちたいと考えている方が多く、「おもしろそう」「手伝ってみたい」と自発的に参加してくれています。各自が無理なくやりたいことをしていて、集まりへの強制などはなく、できる人ができる範囲で活動しているのが特徴です。
――所沢地区の代表者として大切にしていることは何ですか?
これは私の考えですが、ボランティア活動はあくまでも自主的であるべきだと思っています。人から指示されておこなうものではなくて、自分の意思決定の上で携わるものではないでしょうか。だからこそ何かあっても自分の責任ですし、失敗したところで誰かから責められるものでもない。ボランティアは自主性を尊重すべきで、そうした考えで参加すればこそ、自由に楽しめるのだと思いますし、集まりも活気づくというもの。そして、どんなコミュニティにおいても大切になってくるのが人間関係です。考え方や暮らしぶりが異なる様々な人が集まる場では、他者の意見を尊重しながらも積極性や責任感を発揮することが必要で、そういった意味でも自主的に関わることが一番重要だと考えています。
――地域福祉サポーターとして喜びを感じるのはどんな時ですか?
参加した人が楽しそうにしているのを目にした時です。地域福祉サポーターの中には活動に参加したばかりの頃、なかなか打ち解けられず消極的になってしまう人もいます。しかし、時間が経つにつれて、どんどんと明るくなって周囲と会話が弾むようになり、性格が快活になっていく人をこれまで幾度も目にしてきました。私自身も活動を重ねるうちに、もっと人を元気にしたいという気持ちが膨らんでいった経験をしました。他人を元気にするのは決して簡単なことではありませんが、同じ志を持った仲間が一人でも増えるとうれしいですね。
――活動の中で気をつけていることはありますか?
最も難しいのは人との接し方で日々勉強です。特に、高齢者や障がい者との関わりは会社員時代にも経験したことがまったくなかったということもあり、日々の活動の中で考えさせられる部分が非常に多くあります。心が病んでしまっている方や、人との関係づくりが苦手な方もいらっしゃるのですが、そうした方々と円滑に交流することは一筋縄ではいかないのも事実です。大切なのは、その人たちの気持ちに寄り添って声を掛け続け、対話する機会を増やすこと。そうした努力を繰り返していくうちに、少しずつですが理解し合えるものが見えてきますし、不思議と相手も同じように感じてくれていることがわかってくる。一朝一夕でできるものではありませんが、そこで生まれた信頼関係は強いと信じています。
――会社員時代の経験が今に生きていることはありますか?
40代で働き盛りだった頃、新聞で見かけた広告をきっかけに教育里親制度というものに応募したことがあります。貧困から学校に行けないスリランカ人の子どもの教育里親になれる制度で、家庭環境のせいで教育の機会を逸している子どもがいることを知り、悲惨な現実にやるせなさを感じて参加しました。何か力になりたいとの想いから、里親になるだけではなくボランティア団体の定例ミーティングに参加したり、里子と文通して近況を聞いたり、実際にスリランカへ渡航して会いに行ったこともあります。今になって思えば、文化や習慣の違う人と関わりをもった体験が、人としての視野の広がりに繋がったのかもしれません。
――ありがとうございます。それでは今後の目標を聞かせてください
実は目標を設定しないのが私の主義なんです。もちろん目標をもつこと自体は悪いことではないし、定めたものに向かって努力する人はすばらしいと思います。それはそれで大切なことですが、私の場合はその時、その瞬間に興味が湧いたことができればそれで十分。気になったらまず一歩踏み出してみることを大切にしています。
――最後に、同世代の方へメッセージをお願いします
私たち団塊の世代は現役時代、競争がすべてでした。少しでも偏差値の高い大学へ進学して、大企業に勤めて、人よりも早く出世して、たくさんの退職金を得て一生安泰。そうした競争の中で勝った者が成功者で、負けた者は脱落者という図式がありました。でも、今は違います。社会の束縛から解放されて、自分の本当にやりたいことや、自分を生かせる場を選択してもよい時代になりました。地域福祉サポーターは地域のために自分を活かすことができるボランティアの一つです。
そんな地域福祉サポーターは地域の方々への協力を厭わず、繋がりを大事にする人が向いていると思います。あとは、人と会話するのが大好きな方も大歓迎です。困り事の相談を受けることもあるので、寄り添って力になろうと心から思えるような人は活躍できるはずです。この記事をきっかけに、興味をもっていただけたらうれしいかぎりです。
地域福祉サポーターお問い合わせ先
(福)所沢市社会福祉協議会 地域福祉推進課
☎︎04-2925-0041
-インタビューを終えて-
近年では、定年前の準備として退社後の過ごし方をアドバイスする企業が増えているようです。また、セカンドキャリアの相談窓口や地域交流の場を設けるなど、高齢者へのサポートを充実させている自治体も多く見られます。
こうした動きから、「いかに退職後の生き方に迷ってしまう人が多いか」をうかがい知ることができます。特に、長年仕事に専念してきた方はなおさらのことでしょう。そんな時に自身が暮らすまちのことを知る手段として、地域ボランティアへの参加はとても有効です。
今回、取材させていただいた納富さんは、まさにその好事例であり、理想的なセカンドキャリアを進んでいると感じました。特に「自主的に参加することが大切」という納富さんのお言葉はとても共感でき、だからこそ楽しく取り組めるというお話は大きく頷けるものでした。今回のインタビュー記事を通じて、地域福祉サポーターの活動に魅力を感じていただければ幸いです。